結論からお伝えします。モバイル向けランディングページ(以下LP)は、スクロール深度ごとに「見てもらえる前提」が変わります。ファーストビューで判断の起点を提供し、25%〜50%で関心を具体化し、50%〜75%で疑問を解消し、75%以降は意思決定の後押しに専念する。この役割分担を前提に、各ゾーンのコンテンツと計測、技術要件を揃えていく設計が、モバイルLPの改善を進めやすくします。本記事では一次資料で確認できたベンチマークと要件を示し、そのうえでOff Beatの実務上の提案を区別して記述します。
01なぜモバイルは「深度別」の設計が必要なのか
モバイルは物理的な画面が狭く、同じ情報量を伝えるために必要なスクロール量がデスクトップより多くなります。Plausibleのドキュメントでは、モバイル画面は小さいため同じコンテンツを消費するのに多くスクロールが必要で、モバイル利用者が到達した70%はデスクトップ利用者の70%より少ない範囲しか見ていない可能性があると説明されています Scroll depth tracking。深度の数値だけを横並びで比較すると判断を誤りやすいため、デバイスごとに別の基準で評価する必要があります。
ベンチマークも参考になります。Contentsquareの2026 Digital Experience Benchmark(99億セッション・約6,500サイト)は、スクロール率(表示された最も深いピクセルをページ高で割った値)をデスクトップ50.5%、モバイル45.2%と公開しており、前年比で約2%低下しています Average Scroll Depth: What Studies Actually Show (2026)。LPに限ると、Plausibleは「ランディングページでは30〜50%が一般的で、多くのコンバージョンはページ上部で発生するため、低いスクロール深度が必ずしも問題を意味するわけではない」としています Scroll depth tracking。
一方で、上部の重要性は眼球運動の研究でも裏付けられています。Nielsen Norman Groupが2018年に120名・130,000以上の眼球固視を分析した研究では、ページ閲覧時間の57%がファーストビュー内に、74%が最初の2画面分に、81%が最初の3画面分に収まっていました The fold myth: people scroll, if you earn it - Prometheus。「下まで読まれない前提」ではなく、「上から順に注意が減衰する前提」で設計する必要があります。
出典:
- Plausible「Scroll depth tracking」
- Contentsquareのベンチマークを整理したbigdeltaの解説
- Nielsen Norman Group「Scrolling and Attention」
02ファーストビュー(0〜25%)で担う役割
最初の画面は、スクロールを続けるかどうかを決める起点です。情報採餌理論によれば、人は現在のコンテンツの「情報の匂い」から先に進むかを判断するため、ファーストビューの内容が残りも価値があると感じさせない限り、下にはスクロールしないとされています Scrolling and Attention (Jakob Nielsen's Original Research Study) - NN/G。訴求の対象・提供価値・次の一手が同じ画面に収まっていることが求められます。
危険なのは「完結して見える」構図です。Nielsen Norman Groupのユーザビリティ調査では、企業が何のサービスを提供しているかを確認する課題で、75%の利用者がスクロールできることに気付かず、サービスが自分の地域で提供されていないことに後から気付いた事例が紹介されています Scrolling and the Illusion of Completeness。これは「イリュージョン・オブ・コンプリートネス」と呼ばれます。モバイルは縦長の一枚絵のビジュアルを置くと特にこの状態を生みやすいので、次セクションの一部をわずかに覗かせて、下に続きがあることを視覚的に示す工夫が有効です。
ファーストビューで押さえる要素
- 誰のための何か(対象と提供価値)
- 主要CTAまたは次アクションの示唆
- 下に続きがあることを示す視覚的ヒント
NNGの研究では最初の画面が注意時間の約80%を占める一方で、下にスクロールしたくなるだけの強さが最初の画面にあることが条件になるとされています Above the Fold Is a Myth: The Evidence Says Users Scroll。装飾過多のヒーローは、本来伝えるべき言語情報を圧迫します。
0325〜50%:関心を具体化する検討ゾーン
ファーストビューを超えた利用者は、提案の中身を確かめにきています。Chartbeatが2,500万セッションを分析した結果、記事やLPで最も注意が集まるのはページ最上部ではなく、ファーストビューの少し下だと報告されています。利用者はまず最上部で状況を把握し、その下のセクションで読む姿勢に入るため、ここが「コミット」の場所になるとされています Above the Fold Is a Myth: The Evidence Says Users Scroll。
このゾーンでは、ファーストビューで提示した主張を具体化します。たとえば提供価値を特徴3〜4点に分解する、利用シーンを一つ図示する、短い証拠(第三者データや公的な出典)を添える、といった構成が検討対象になります。長文の記述を一つ置くより、見出しとサブ見出しで骨格を作って段落は短く保つほうが、親指スクロールの速度に合いやすくなります。
本文中に差し込むサブCTAは、まだ検討途中であることを前提にします。「資料を読む」「一分で分かる動画を見る」など、意思決定の負担が低い選択肢をここに置き、申込みフォームへの誘導は後段に残す構成が検討できます。これはOff Beatの実務上の提案であり、固定の最適解ではありません。
0450〜75%:疑問を解消する評価ゾーン
このゾーンに到達している利用者は、関心が一定以上あります。Upward Engineの整理では、50〜75%は高いエンゲージメントの帯域で、このゾーンにCTAやスティッキーなナビゲーションが存在するかを確認するよう勧められています Landing Page Metrics: What To Track In 2026。評価のための情報、つまり「本当に導入して問題ないか」を判断する材料を集中的に置く場所です。
評価ゾーンに置きたい情報の例
- 価格・プラン・無料範囲の条件
- 導入/開始までのステップと所要時間
- 想定される疑問への回答(FAQ)
- 既存の信頼材料(受賞・公的認証・出典が明確な数値)
ここで注意したいのは、情報の抜けと順序です。Usermavenの解説では、浅いスクロール深度と高いコンバージョンの組み合わせは強いメッセージとCTA配置を示す一方、深くスクロールしているのにコンバージョンに至らないケースでは、価値提案の不明瞭さ、摩擦、意思決定疲労が示唆されるとされています The value of scroll depth and how to track it。深く読まれているのに申込みに至らないなら、評価ゾーンの情報設計を疑うのが先です。
スティッキーCTA(画面下部に固定表示するボタン)はここで効きやすい設計の一つですが、固定要素はファーストビューの可読範囲や後述するCLS(レイアウトのズレ)に影響します。表示タイミングと高さは慎重に決めてください。
0575〜100%:意思決定を後押しする決断ゾーン
最後まで到達する利用者は少数ですが、見込みは最も高い層です。Upward Engineの同じ整理では、75〜100%は深い評価段階にあたり、最終CTAが明確に示されているか、フッターに埋もれていないかの確認が推奨されています Landing Page Metrics: What To Track In 2026。この帯域で求められるのは追加情報よりも、迷いを減らす要素です。
- 入力項目を絞ったフォーム、または明確な連絡手段
- 導入後のサポート体制や解約条件
- 最終CTA直前のリマインド(提供価値を一文で再掲)
Colorlibの整理では、フォーム項目を5から3に減らすとコンバージョンが向上する、ナビゲーションを外すとコンバージョンが上がる、単一CTAは複数CTAを上回る、といった傾向が紹介されています 40+ Landing Page Statistics: Conversion Rates & Benchmarks (2026) - Colorlib。ただし出典元の集計条件を各自で確認したうえで取り扱ってください。業種・単価・流入経路によって傾向は変わります。
06深度別設計を支える技術要件
コンテンツ設計を活かすには、モバイル特有の技術要件を満たす必要があります。「表示が遅い」「ボタンが押しづらい」といった摩擦は、どれだけ構成を練っても相殺されます。
Core Web Vitalsの基準
Core Web Vitalsの良好な閾値は、LCPが2.5秒以下、INPが200ミリ秒以下、CLSが0.1以下で、モバイルとデスクトップを分けて75パーセンタイルで評価されます Core Web Vitals: How to Fix LCP, INP and CLS。自分の高性能なノートPCと光回線で速く感じても、4人に1人の最も遅い利用者、たとえば中位機種の端末と不安定なモバイル回線のユーザーに対して速くなければ合格しません。75パーセンタイルという基準は、最良ではなく「現実的な最悪ケース」を基準に設計することを強いる仕組みです Core Web Vitals 2026: LCP, INP & CLS Guide。
実際の達成状況は厳しい水準です。HTTP Archive Web Almanacが2025年7月のCrUXフィールドデータに基づいて集計した結果、2025年にモバイル原点の48%・デスクトップ原点の56%が3指標すべてをパスし、モバイルで「良好」なLCPを得たのは62%に留まりました Page Speed & Core Web Vitals Statistics 2026 - CO Consulting。モバイルLCPは最も失敗しやすい指標として扱うのが実態に合います。
LCPに関わる要素はファーストビューに集中しがちです。ヒーロー画像のサイズ、Webフォントの読み込み、ブロッキングするスクリプトなどを整理してください。CLSは、スティッキーCTAや後から挿入されるバナーが原因になりやすい指標です。
タップターゲットのサイズと間隔
CTAや主要リンクのタップしやすさは、スクロール深度を超えた体験の基礎です。Androidアクセシビリティヘルプでは、タップターゲットを少なくとも48×48dpとし、8dp以上の間隔を空けることが推奨されており、48×48dpは画面サイズに関わらず物理的に約9mmに相当します Touch target size - Android Accessibility Help。WCAG 2.2(SC 2.5.8)はタップターゲットを少なくとも24×24ピクセルと定めており、Appleは44×44pt、Googleは48×48dpをより使いやすい値として推奨しています Mobile Touch Target Size — Complete Guide & Fixes for Accessibility 2026。
小さなリンクが連続する利用規約リンクやフッター導線は、間隔が狭いと誤タップにつながります。深度別の設計で各ゾーンに置いたCTAやサブCTAが、この基準を満たしているかを機械的にチェックすることをおすすめします。
出典:
- web.dev「Web Vitals」
- HTTP Archive由来の2025年集計を整理したCO Consulting「Page Speed & Core Web Vitals Statistics 2026」
- Android Accessibility Help「Touch target size」
07深度別の計測と改善の進め方
設計を回し続けるには、計測の設計も揃える必要があります。スクロール深度は25%・50%・75%・90%の間隔で計測する手法が広く使われており、利用者の読み進めを詳細に把握できます How Scroll Depth Tracking Improves Content Performance - SearchX。GA4のイベントで取得する場合、ページタイプとデバイス、流入経路でセグメントできるようにしておくと、LP単体の改善に活きます。
ただし平均スクロール深度は分析指標として扱いにくい性質があります。GA4の90%到達率は粗い指標ですが、「実質的に最後まで読まれたか」を示す点で正直な数値として役立ちます Average Scroll Depth: What Studies Actually Show (2026)。深度の平均値を上げること自体を目的化せず、CTAやフォームの到達率・完了率と組み合わせて意味を読み取ってください。
判定を誤りやすい二つのパターン
- 深度は低いがコンバージョン率は高い:ファーストビューと直下で意思決定が完了しているサイン。無理に本文を長くすると逆効果になる可能性がある
- 深度は高いがコンバージョン率は低い:評価ゾーンの情報不足、CTAの位置、フォーム摩擦のいずれかを疑う
Plausibleのドキュメントでは、最重要CTAがページの80%位置にあるのに大半の読者が40%で止まっているなら、CTAを上に移すべきと示されています Scroll depth tracking。配置の仮説と計測を一対にして、小さく試す運用が現実的です。
仮の算定例(計算は仮定)
ある月間流入5,000セッションのモバイルLPで、ファーストビュー離脱率が40%、評価ゾーン(50〜75%)到達率が25%、最終CTA付近到達率が15%、CTAクリックから申込みへの転換率が20%と仮定します。この仮定のもとでは、申込み件数は5,000×0.15×0.20=150件という計算になります。評価ゾーンへの到達率を25%から30%に改善でき、下流の比率が維持されたとすると、150×(0.30/0.25)=180件となる計算です。あくまで数値は仮定であり、実際の値は各LPのデータで置き換えてください。
出典:
- SearchX「How Scroll Depth Tracking Improves Content Performance」
- bigdelta「Average Scroll Depth: What Studies Actually Show」
08広告クリエイティブと接続して考える
LPの改善は、流入する広告クリエイティブと切り離せません。広告で約束したメッセージが、LPのファーストビューに同じ言葉と同じ対象で現れるか。配信面ごとにクリエイティブが分かれているとき、どのLPにどのクリエイティブを紐づけるか。こうした整合は、スクロール深度を押し上げる土台になります。
Off Beatは広告クリエイティブ制作とAI SaaS・AX事業の二つを柱に、広告制作の現場で培った知見をお客様自身が使えるプロダクトへと変える取り組みを進めています。2026年10月13日に利用受付を開始したAd Checkは、広告代理店・制作会社向けのAIチェック・品質管理ツールで、動画・バナーの確認、コメント・共有、修正指示をナレッジとして蓄積する用途を想定しています。別製品として開発・検証中のAd Loopは、広告の制作・運用を一つにつなぐAIプラットフォームとして「データと知見を次の判断に」という方向性で設計を進めています。LPとクリエイティブの往復を仕組みで支えたい方は、こうした選択肢も検討材料にしてください。
Off Beatの集計値は、累計制作本数50,000本以上(2026年10月時点)です。モバイルLPのスクロール深度別設計は、画面の制約を前提にしながら、各ゾーンの役割と技術要件、計測の設計を揃えていく地道な作業です。今日の記事がその手順を整える一助になれば幸いです。
